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荒瀬ダム撤去工事

新たな価値の
創造
− 国内初プロジェクトに挑む −

さまざまな難題を乗り越えながら成し遂げた国内初・コンクリートダム撤去工事。
つくることを得意とするフジタによる「戻す」という作業。成功への要因は、やはり「つくる」ことにあった。

球磨川中流域を
「かつての清流」に
戻したい

2018年3月に完了した、熊本県八代市・荒瀬ダム撤去工事。コンクリートダム撤去工事としては国内初となる、前人未到のプロジェクトだった。日本三大急流のひとつである球磨川の中流域に、水力発電の適地とされ1955年に完成した、荒瀬ダム。建設前は「アユで川底が見えなかった」「川に入ると魚たちが足を突っつきにきた」と言われるほど、まさに地域の宝といえる場所だった。熊本県の経済発展に大きく貢献したこのダムの水利権が失効し、撤去工事が決まると、かつての美しい清流が再生されることを夢見る地元住民の方々からの声が高まった。

前例のない工事を「試行錯誤の連続だった」と振り返る作業所長の宮地

高さ25m、長さ約210mにおよぶダム堤体と門柱8基の撤去。前例のない工事に大きな重圧がのしかかる。作業所長を務めた宮地利宗は当時を振り返り「現場はとにかく“挑戦”の連続だった」と語る。工程一つひとつが手探りで、慎重に確認しながら進める必要がある。しかも、川に棲む命を守りながら、という大きな使命も託されていた。アユは毎年3月には海から川に遡上し、秋に産卵。孵化した稚魚は11月に海へ下る。その習性に合わせ、河川水域内で作業できるのは11月中旬から2月末までの3ヶ月半のみ。「河川内で作業できない間は、手順や工法を綿密に協議する時間に充て、必ず成し遂げてみせる」と強い決意を表した宮地。工事は2012年から、6年後の完成を見据えてスタートした。

水力発電を目的に建設され、 地元の発展に貢献した荒瀬ダム

発破回数の
大幅削減につながった
「倒壊発破」

プロジェクトには宮地をはじめ、トンネル・ダム建設工事のスペシャリストが集結。「オールフジタ」の総合力といえるチームで、白熱した議論を繰り返しながら工事に臨んだ。まず着手したのが、ダム湖の水位を低下させるため、ダムの堤体に穴を開けて水流を通すための工事。フジタの保有技術「FONドリル工法」を用いるも、予期せぬ障害に遭遇。ダム上流側の水位低下装置を設置する高さに岩盤が見つかり、水位を低下させる工事が難航したのだ。60年以上も前に建設されたダムの、当時の資料などはほとんど残されていない。作業して初めて状況がわかるというケースの連続が、宮地の頭を悩ませた。

トンネル工事などで活躍している フジタの技術「FONドリル工法」

ダム湖の水位を下げ陸上化し、ダム本体の撤去工事に入ったものの、工期には遅れが生じていた。時間を取り戻すべく、宮地がたどり着いたのは門柱の「倒壊発破」だった。門柱の上部から2m刻みに発破していくという当初の計画とは違う、根元から1度で壊すという方法だ。土地造成工事で木をチェーンソーで伐採した経験から思いついた「木を切るように門柱を倒す」という発想。プロジェクトメンバーが祈るように見守る中、1基目の門柱の倒壊に成功すると、皆抱き合って喜んだ。この発破方法が功を奏し、工期は短縮。さらには発破回数を大幅に削減する工夫も施し、周囲環境への配慮にもつなげることができた。

多彩なノウハウ・実績を持つフジタの精鋭たちが知恵をぶつけ合う

ダムの撤去は2012年度〜2016年度 に5段階に分けて行われた

木を切り倒すように門柱の横倒しを実現した「倒壊発破」

工程一つひとつに
見られた
「環境への配慮」

現場周辺は、右岸側にJR肥薩線のレンガ積みトンネル、左岸側には民家があるという環境。工事の騒音・振動を軽減するための十分な配慮が求められていた。
そこで堤体を撤去する際には、手順に合わせて発破させる雷管(火薬を筒に詰めた火工品)を変えるという新しい発破工法を採用。
この、フジタの技術部から発案された方法で騒音・振動レベルを抑制することができ、工事もスムーズに進行。川の主流となる右岸部の「みお筋部」の堤体は作業ボリュームが大きく、2年かけて撤去する計画でいたが、なんと1年で終えることができた。

発破する箇所に応じて3種類の雷管を使い分け騒音・振動を抑制

今回の工事による周辺環境への影響は、最小限にとどめたい。その想いを工程のあらゆる面に反映した。例えば、水中発破が川に棲む生物に影響しないよう、濁水が下流まで流れてしまわないよう、工事エリア内の水中を二重の汚濁防止膜で覆うことにした。
発電所へ続く導水トンネルを埋め戻す作業では、使用する重機の燃料に100%バイオディーゼルを採用。さらに埋め戻しの材料には、解体したコンクリート殻を使用するなど、さまざまな配慮を織り交ぜながら工事を行なった。 無事に撤去を完了させることだけが、フジタの使命ではない。「球磨川に豊かな自然を取り戻して、地元の皆さんに笑顔になってもらいたい。その一心で取り組んできた」と語る宮地をはじめとする、プロジェクトメンバーの熱い気持ちが、環境への配慮を徹底させた。

「汚濁防止膜」で囲んだ工事排水は環境基準値以下まで処理を行なった
LEADS Relief

環境に配慮した工程で、
豊かな自然を取り戻す

地元の方々の、球磨川への想いが伝わってくる現地の看板
ダムが撤去され、復元された清流を感慨深く見つめる宮地

未来を明るく照らす
「インフラ更新改築の
先駆者」として

撤去された川の部分は今、かつてダムがあったことも感じさせない、表情豊かな清流となっている。唯一の手掛かりは、両岸に残された堤体の遺構だけだ。川の水位が低下したことで水面に光があたりやすくなり、底生動物の種類も増加した。そして、これらを餌にする魚類や鳥類も増えた。もちろん、海からは多くのアユが遡上してくる。球磨川中流域は今、ダム建設前の姿を取り戻しつつある。「濁っていた川の水がきれいになった」「アユ釣りの人たちが戻ってきた」など、地元の方々から喜びの声も数多く寄せられた。

ダム撤去後、球磨川中流域ではたくさんのアユが泳ぐ(イメージ)

今回のプロジェクトは「日建連表彰2020 第1回土木賞」を受賞。今後増加が予想されるインフラ構造物の撤去・改修工事の成功事例として注目を集めている。建設業の使命である社会資本の整備。今後予想される老朽化した構造物の見直しや更新。荒瀬ダムの撤去工事はその将来のモデルとなる事業とも言える。
開始直後は難題続きであったこの工事が、なぜ完了に至ることができたのか。それは「撤去すると何もなくなるが、カタチにはならないものをつくることができた」という宮地の言葉に集約されている。
前例のない工事でも、これまで培ってきた技術・ノウハウを駆使し、今までにない手順や工法を生み出す。そして、実現する。そうした「新しい価値を提供する」フジタの姿勢が、今回の成功につながった。

今ではアユ釣りや、ボートで川を下るラフティングを楽しむ姿も
LEADS Evolution

培ってきた技術・ノウハウを軸に、
今までにない手順や工法を生み出す

Voice

多くの方々に
喜んでいただけることが
この仕事の一番のやりがい

作業所長宮地

「かつての清流」を取り戻しつつある球磨川中流域