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2007.09.18

水も漏らさぬ構造物は自然にもやさしい

私たちが生活するために必要不可欠な水は、インフラが整備され、生活環境が充実すればするほど使用量が増えていく。そして、同時に生活排水や産業排水も増加する。
この排水を垂れ流すのではなく、きれいに処理して海や川に返すため、なくてはならないのが水処理センターだ。水処理センターでの下水処理というと「臭いのでは?」など、あまり良いイメージを持たない人もいるが、一度水処理センターを訪れればそのイメージは覆されるだろう。


今回取材に訪れたのは、フジタ・西武特定建設共同企業体(以下、フジタJV)の坂戸処理場(3)作業所だ。埼玉県坂戸市にある石井水処理センターの敷地内で、処理施設の増設工事を行っている。
1993年に竣工した石井水処理センターの入り口からは、緑に囲まれた管理棟などの建物が見えるだけなので、一見して水処理施設だとは分からないが、周辺の坂戸市、鶴ヶ島市の約6万人の市民の水処理を行っており、現在施工中の増設工事が完了すると約11万人分の水処理が可能になるという。

水処理センターのしくみ
水処理センターのしくみ
 

【水処理センターのしくみ】

今回の増設工事でフジタJVが施工するのは、主な水処理センターの施設のうちの「最初沈殿池」「エアレーションタンク」「最終沈殿池」である。では、水処理センター全体の仕組みはどうなっているのだろうか。


上の図をみてみよう。
処理区域内の生活排水は地下深くにある汚水管で水処理センターに集められると、まず「沈砂池」で土砂などの無機物が取り除かれる。
次に「最初沈殿池」にポンプで汲み上げられ、ここでゆっくりと水が流れて、下水中の有機物を主体とした汚泥と汚水に分離される。
分離された汚泥は濃縮・焼却後にセメントやレンガにリサイクルされ、一方の汚水は「エアレーションタンク」に進み、酸素を供給されながらここをゆっくりと流れる間に、微生物の力によって有機物が分解され、窒素・リンなどが取り除かれる。
そして「最終沈殿池」では前段の生物処理によって発生した汚泥が沈殿し、上澄みの水が「塩素混和池」で殺菌・消毒されて川や海へと流されていく。


こうして生活排水がきれいになって自然へと返されているのである。

【最大の難関 ~漏水のないコンクリートの品質確保~】

今回フジタJVが施工する、汚水が流れる間にきれいになる「最初沈殿池」「エアレーションタンク」「最終沈殿池」は、全長が約190mにもなる。完成すると半地下の構造物となってしまうため、全貌を見ることができなくなってしまうが、実際には地下7mの深さのコンクリート構造物なのである。
全長190mの細長い敷地(施工前)
全長190mの細長い敷地(施工前)
陸上競技の100m走のレーンが何本もあるよう
 
半地下構造物になっている状況
半地下構造物になっている状況
右側が施設構造物
 
また、構造物の内部に入ると、その構造が思いのほか複雑であることが分かる。
下水処理の構造(水路部)があるだけではなく、メンテナンスのために人間が歩く空間(管廊部)も水路部に隣接して重なりあっており、壁で構造物が区切られている。その高さは7m近くあり、まさにコンクリートの巨大な地下シェルターのようだ。
エアレーションタンクの中
エアレーションタンクの中を示す藤多
 

そして、この水処理センターの工事で何よりも大切なことは、水の漏れない構造物をつくるということに尽きる。


水を処理する施設なのだから、コンクリートの構造物ができたら、その中に金属性の容器や配管が造られるのだろう、と想像している方もおられるのではあるまいか。
ところが、施設完成後は防水処理を施さない無垢のコンクリートの器に、直接貯水されるのである。


水処理センターはその用途からも川べりなどの低地に建設されることが多く、坂戸処理場(3)作業所でも、地下を1.5m掘り下げると地下水が出る。
水を漏らさないというのは、施設が稼動したときに処理する水を漏らさないことはもちろんだが、外からの水の浸入も完全に防ぐということも意味する。
これは、環境への配慮とともに、構造物自体の耐久性にも関わってくることであるから、何よりも重要なことなのである。
高品質なコンクリート構造物が求められていることがお分かりであろう。

内部の様子(管廊部)
内部の様子(管廊部)
 
内部にはこんな狭いところも
内部にはこんな狭いところも
 

かと言って、特殊なコンクリートを用いるわけではない。普通のコンクリートでいかに水密性を高く、漏水のない構造物をつくるかがポイントになる。また、発注者の品質管理基準は非常に高く、完成までには何度も検査をクリアしなくてはならない。


工事では高さ7mの壁などでも、高さ方向には継ぎ目のないコンクリートとしなければならないが、型枠への負荷を考慮して、何度かに分けて打設を行う。この際、最初の打設後に時間をおき、コンクリートが固まりかけたところで次の打設を行うのだが、コンクリートが固まってしまってから次の打設を行うと、前のコンクリートと一体にならずに隙間ができたり、クラック発生の原因となり、品質の悪いコンクリートとなってしまう。
このため、気温や気象条件、生コン工場からのコンクリートの運搬時間などを考慮し、コンクリートが固まるタイミングを割り出すそうだ。次席の藤多は「次の打設のタイミングは、早くても遅くてもダメ。一日の打設のボリュームやどの順番でどこに打設するか、計画を綿密に立てることが、コンクリートの品質を左右する」という。
コンクリートの固まり具合は突き棒でつついて確認し、何度も経験しているうちに、そのタイミングがだんだん分かり、次回の打設時の計画にも反映させることができるようになるという。まさにコンクリート打設の職人技だ。


しかし、どんなに完璧なコンクリート打設をしても、コンクリートは元来、固まると収縮するものであるため、長さ190mもあるコンクリート構造物ではクラックを完全に防ぐことは難しい。
そこで、構造物に発生するクラックをあらかじめ特定の場所に集めてしまうために、数mごとに「誘発目地」という溝状の、コンクリート厚の薄い部分をつくる。するとクラックは誘発目地部分に集中するため、ここに止水板や鉄板などを埋め込んでおき、表面からは伸縮性のある材料で誘発目地をシールすることにより漏水を防ぐしくみになっている。
構造物の長さ方向には、幾つかに工区分けを行い、そのブロックごとにコンクリート打設をしていくが、ブロック間のコンクリートの打ち継ぎ部分も同様に処理している。
 

※:

型枠とは生コンを入れて固める器のことで、型枠大工と呼ばれる職人さんがつくる。型枠の中の空間にはあらかじめ鉄筋を組み立てておく。そこに生コンを入れるのだが、水のように流し込んだだけでは隙間だらけになってしまうので、型枠の外側から木槌でたたいたり、上から竹の棒でつついたりしていたため、今でもコンクリートを「打設」すると言う

 

 

【水を遮る「締切鋼矢板工法」の効果】

また作業所では、周辺環境・地域貢献・安全・品質・施工などに対して、「創意工夫70項目」に取り組んでいるのだが、この70項目の最初に書かれているのが「土留め兼用締切鋼矢板工法の提案・実施」だ。


以前、石井水処理センターの敷地内で別の工事が行われた時、地下水をくみ上げながら工事を行ったため、周辺の地下水位までも下がってしまったことがあるそうだ。そこで、今回作業所では地下水と地盤への影響を最小限にとどめるために、当初の設計には盛り込まれていなかった「締切鋼矢板工法」を採用して、作業現場を地下水から締め切ることにした。
この工法は今までの当社の水処理センターの工事でも実施例がなく、今回初めて採用されたもので、作業現場周辺に40cm×16mの鋼製矢板を640枚打ち込んで内部を掘削し、矢板が倒れないようにアースアンカーで地中から引っ張っている。

鋼製矢板で囲われた作業現場
鋼製矢板で囲われた作業現場の様子(2006年6月)
 

この締切鋼矢板工法を用いることによって、地下水などの周辺環境への影響を抑えられただけではなく、通常の工事よりも安全性、作業性において良い結果が生まれるとともに、品質管理、品質検査の面でも大きな貢献をしたそうだ。


まず、これまで通常採用されていた「桟橋工法」では、法面(地面を掘削した斜面)の幅が必要となり、資材搬入などのための桟橋が大きく張り出すことになる。桟橋を支えるための鉄骨柱も作業現場内に打ち込まれるため、桟橋下部付近の作業には安全作業により注意を払う必要がある。また、前例のように地下水もたくさん汲み上げるため敷地周辺の地下水位までも大きく低下させてしまうことになる。


一方、締切鋼矢板工法を用いると、法面の幅が取られない分、施工場所の間近に重機が入ることも可能で、作業現場内に鉄骨の柱も必要ない。このため、工事管理や作業がスムーズに行え、鉄骨柱部からの漏水の危険性もないなど、安全性、作業性や品質が向上することが分かる。もちろん敷地周辺での地下水位の低下も飛躍的に改善できる。


さらに、締切鋼矢板工法を用いることで、桟橋工法では行うことができなかった、外からの漏水検査も可能になった。水は浸入する入口側を防水する方が、滲み出てくる側を防水するよりもしっかりと防水ができるため、外部からの漏水箇所を埋め戻しの前に検査したのである。これは、工事中は作業に支障がない程度に地下水をくみ上げていたものを、ポンプを止めることにより構造物と鋼矢板の間に地下水を充満させることにより、容易に漏水検査を行ったものである。このことで、品質面でも大きな効果があがったといえる。
まさに締切鋼矢板工法の採用は、フジタのVE力の真価の現れである。

桟橋工法
桟橋工法

締切鋼矢板工法
締切鋼矢板工法
 

こうして高品質のコンクリート構造物はほぼ完成し、現在は処理施設内に設置されるプラント工事も平行して行われている。通常は処理施設工事では構造物が完成した後、プラント工事が別途行われるが、今回は既にプラント設備の資材が現場に積まれ、工事も開始している。
山口所長は「営業開始される時に、全体が評価されることが先乗りの施工業者の評価につながる。一番最初に躯体をつくったフジタJVが評価してもらえるように、プラント工事も含めて全体がうまくいったという評価が出ればと思う」と話してくれた。
打ち合わせする山口所長
プラント工事会社と作業所で打ち合わせする山口所長

【自然への配慮】

石井水処理センターの敷地内では、処理されたきれいな水を使って蛍が飼育され、蛍が羽化する頃にセンター主催の蛍祭りが開催される。17年も続くこの蛍祭りは坂戸市民なら誰でも知っているそうで、毎年2千人もの市民が訪れている。
敷地内の蛍川 今年6月15日の蛍祭り
蛍祭りの開催される石井水処理センター
敷地内の蛍川
きれいな水が流れる
 
今年6月15日の蛍祭り
大勢の人が幻想的な蛍の舞に魅せられた
 

また、作業所のすぐ隣には、将来の増設用地を利用したハス田がつくられており、今後市民の目を楽しませることになるだろう。
この他にも自然に配慮した取り組みが水処理センターでは様々に行われているのだが、何より、人が生活に使った水のリサイクルという、大きな自然への配慮が水処理センターでは行われている。


完成後は地面に埋め込まれ、あまり目立たずに活躍する水処理施設は、無機的なコンクリート構造物ではあるが、人々の生活をしっかり支えていることを実感するとともに、自然へのやさしさを感じた作業所取材であった。

集合写真
集合写真
広い作業所が写るようにと不自然な中腰に
左より 町田徹(西武建設㈱)、小池香代、山口太一(所長)、藤多真也
(以上、敬称略)

【工事概要】
工事名称: 坂戸・鶴ヶ島下水道組合
石井水処理センター建設工事その13
工事場所: 埼玉県坂戸市大字石井地内
発 注 者: 日本下水道事業団
工  期: 2005.9.23~2007.12.20
施  工: フジタ・西武特定建設共同企業体
概  要: 下水処理場
土木工事(最初沈殿池・反応タンク・
最終沈殿池工)、建築機械設備工事、
建築電気設備工事

 

2007年5月29日撮影の作業現場
2007年5月29日撮影

 

(2007年9月)

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